音楽療法とは

 音楽療法とは、「音楽の持つ生理的・心理的・社会的働きを、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上に向けて、意図的、計画的に活用して行われる治療的、教育的技法である」と定義されています。

 その対象は多岐に渡っていますが、大きく分けて、児童、成人、高齢者とに分けることができます。発達障害をはじめ、身体障害や喘息、不登校・引きこもりなどの児童に対する音楽療法は、学校、通所(入所)施設、自主グループなどで行われています。また、発達障害もしくは精神障害など成人期の疾患や障害に対しては、作業所、通所(入所)施設、精神科病院などが主な実践の場となっています。そして、認知症、加齢に伴うさまざまな慢性疾患・障害、脳卒中後遺症などを抱える高齢期の方々に対しては、病院、老人保健施設、通所、入所の高齢者施設など、多くの場所で音楽療法が取り入れられています。さらには、終末期医療、緩和ケアの領域でも行われています。

 音楽療法においては、対象者が「上手に演奏できるようになる」ことを第一義的には目指しません。音楽療法の時間の中で、対象者の健康や成長にとって意味深い音楽経験がなされることこそが大変重要です。対象者にそのような「意味深い」経験が起こる上では、音楽療法を行う人の存在がとても大切な鍵となります。ですから音楽療法士には非常に高い専門性が要求されます。音楽のみならず、病気や障害、心理学や医学、人との関係などに関する高度な知識と技術、臨床経験が必要です。

 音楽療法で使われる音楽や音楽活動は、対象となる人のニーズや能力に応じて提供されます。例えば高齢者のグループでは、馴染みの曲を歌ったり演奏することで、音楽をきっかけとしたコミュニケーションが促進されたり、その人らしさが引き出されることによって、生活の質の向上が可能となります。一方発達障害児のグループでは、失敗体験の多い子どもでも、音楽活動を通してグループ活動に参加できるようになったり、学習に必要な集中力や認知の能力を高めることができます。

 障害や慢性疾患の中には、本来の治癒が難しい場合もありますが、音楽療法をとおして、生き難さが和らいだり、喜び多く過ごせるようになるなど、援助できることはたくさんあります。

 音楽療法の現場は、医療、福祉、教育など多岐にわたり、さらに現代のストレス社会において、自己啓発や予防としても注目を浴びてきています。近い将来に超高齢化社会を迎え、また障害や健康に対する意識が徐々に変わりつつある現在の日本においては、音楽療法に対する期待も高まりつつあります。だからこそ、職業、学問としての一層の発展と確立が迫られていると言えましょう。

 

 日本における音楽療法日本には全国組織としての音楽療法団体として日本バイオミュージック学会と、臨床音楽療法協会の2つの組織がありました。その2つの組織が1995年春に全日本音楽療法連盟を立ち上げました。

 さらに2001年4月、日本バイオミュージック学会と臨床音楽療法協会は大同団結し「日本音楽療法学会」を設立、学術研究、資格認定など全ての活動を引き継ぎました。即ち日本音楽療法学会音楽療法士の養成、国家資格化、および音楽療法の保険点数化などを目指して活動を展開し、1997年春には最初の認定音楽療法士100名が誕生しました。

 東京音楽療法協会の会員は日本音楽療法学会と積極的に関わり、臨床家の立場を生かして音楽療法の発展のために貢献しています。激動する日本の音楽療法界の中で当協会は実践家の団体として大きな役割を担っていくことになると考えています。